『あさがくるまえに』フランス・ノルマンディー地方の港町ル・アーブル。夜が明ける前、3人の青年が車で海へ向かう。波乗りに挑み、心地よい疲れとともに帰路に着くが、そのとき、大きな運命の波が押し寄せる・・・・・・脳死とは何か? 脳が死ぬということは、すなわち「死」を意味するのか? 残された者はどのように心を整理していくのか? 息子を失って泣き崩れる母親がいるその向こう側には、死を待つ母親を案じる息子がいる。「臓器移植」は、人の命を救う一方で、遺族が感傷に浸る時間を待ってはくれない。家族に提供を打診する臓器移植コーディネーターの存在が、冷酷で非情にうつっても不思議はない。しかし、コーディネーター・トマ役のタハール・ラヒムの演技は、人間味にあふれ、あたたかい。「彼らが直面する感情的な負担から、どうして彼らは自分を守ることができるのか」を知ろうと、撮影前に、ラヒムは実際に移植コーディネーターを手がけるレジス・ケレ氏を何度も訪ねたという。その結果、ラヒムは、ドナーを静かに導く天使のようなトマを演じ切った。「心臓」が主人公となる群像劇を一編の映像詩のように紡いだ、カテル・キレヴェレ監督の感性はどこまでもしなやか。「この作品では、社会の多様性、人と人との連帯を表現したいと思いました」と語ったキレヴェレ監督。出演者を決めるときも、多様性を念頭に置いた。「それが映画に生き生きとした力をもたらす」と彼女が信じたとおり、生命力にあふれた1本の映画がこうして完成した。(Mika Tanaka)監督:カテル・キレヴェレ出演:タハール・ラヒム、エマニュエル・セニエ、アンヌ・ドルヴァル2016年/フランス・ベルギー/104分/PG12Réparer les vivants de Katell Quillévéré avec Tahar Rahim, Emmanuelle Seigner, Anne Dorval; 2016, France, Belgique, 104 mn, PG12
『あさがくるまえに』Réparer les vivants