『ミモザの島に消えた母』Boomerangノワールムーティエ島(Île de Noirmoutier)。ブルターニュ地方の言葉で、「黒い修道院」という意味を持つこの島は、冬にはミモザが咲くことから、「ミモザの島」とも呼ばれている。しかし、美しいノワールムーティエ島で繰り広げられる人間模様は、決して島の景色のように美しいものではなかった。主人公・アントワン(ローラン・ラフィット)は、40歳になって初めて、ノワールムーティエ島で溺死した母の死の真相を究明しようと動き出す。母の死に口を固く閉ざす祖母と父。はじめは気後れしていたが、徐々に兄を理解する妹のアガット(メラニー・ロラン)。離婚し、孤独の中を歩くアントワンは次第に絆を取り戻す。父と向き合い、自分の娘と歩み寄り、新しいパートナーと支え合おうと、少しずつ前進していく。次第に穏やかな笑顔を取り戻すアントワンの表情が印象的だが、LGBTの姪と寄り添うアガットのまなざしも捨てがたい。フランス映画祭2016での上映のため、来日したフランソワ・ファブラ監督(François FAVRAT)は、きっぱりと語る。「フランスは、近代的な国で、家族の問題をオープンに語ることができる国と思われているかもしれません。しかし、実際は違います」タブーは、フランスにも確実に存在していて、同性愛、こどもへの虐待……そんな類いの家族の秘密はひた隠しにされているという。ファブラ監督自身も、家族の問題に悩み続け、カウンセリング(精神分析)に通ったことがある。そんな中、自分だけでなく多くの家族が同じように「家族の秘密」に苦しんでいることを知る。その思いがこの映画を完成させた。「ロシアの作家、チェーホフが19世紀から書き続けている家族の問題が、今でも、国を越えて続いているのです」。ファブラ監督がそう語ると、主演のローラン・ラフィット(Laurent LAFITTE)さんから、ひと言。「時間が経過するにつれて、問題は深刻になってきているのかもしれませんね」フランスは自由の国というイメージが強い。私たち日本人にとって、憧れである自由の国でも、私たちと同じような問題が存在していることを知る。それと同時に、ファブラ監督の言葉に、フランスという国の底力を見た。「どんな家族にも秘密はあるのでしょう。だからこそ、闘ってでも真実を勝ち取ることが大切だと思うのです」フランスらしい、力強さと誇りにあふれたひと言だ。 (Mika Tanaka)監督:フランソワ・ファヴラ出演:ローラン・ラフィット、メラニー・ロラン、オドレイ・ダナ、ウラディミール・ヨルダノフ、ビュル・オジエ2015年/101分
『ミモザの島に消えた母』Boomerang