『ノートルダム 炎の大聖堂』2019年4月15日。火災が最初に検知されたのはイースターマンデーのミサが厳かに行われていた18:17、消防に通報が入ったのはそれから30分後のことだった。火災報知器のアラームに気づいたのが勤務初日の新任警備員だったこと、トランシーバーの雑音のため担当警備員が出火を確認する場所を間違えたこと……ノートルダム大聖堂で発生した火災は、1つひとつの小さな不運が次々と重なったことで、大惨事となった。大聖堂を前にする若い消防士たちのうち2人はこの日が初出動だ。彼らは、小型車両の簡易な装備で120 メートルを超える高さの炎を相手に闘うことになる。次々と立ちはだかる障害、救いたいのに救えないもどかしさ。カメラがとらえる映像に息を呑む。それ以上につらいのは、さまざまな”音“だ。燃え広がる炎の音、消火ホースから流れる水の音、鉛の溶ける音、天井が落ちていく音、きしむ蝶番や鍵が閉まる音、床に落下して割れる石の音……2019年当時のニュース映像では知り得なかった事実を、”音”が伝えていく。音が伝えてくれるのは破壊だけではない。大聖堂から少し離れた場所では、パリ市民やパリを訪れた観光客たちが集い、”アヴェ・マリア”を合唱していた。幾重にも重なる祈りの”音”に涙が出る。なぜこれほどまでの大火災が発生したのか?3年以上が経過した今も、調査は続いている。しかし、ジャン=ジャック・アノー監督はこう語る。「この映画で伝えたいのは、なぜ火災が起きたのかではなく、どのように大聖堂が救出されたのかということです」。被害は決して小さいものではない。しかし、私たちの(Notre) あの大聖堂は、1人の死者を出さずに救われたのだ。映画の最後に登場するあの少女のまなざしに「信仰とは何か」という問いの答えが見えるような気がする。(Mika Tanaka)監督:ジャン=ジャック・アノー出演:サミュエル・ラバルト、ジャン=ポール・ボーデス、ミカエル・チリニアン2021 年/フランス・イタリア/110 分Notre-Dame brûle de Jean-Jacques Annaud avec Samuel Labarthe, Jean-Paul Bordes, Mikaël Chirinian, Jérémie Laheurte, 2021, France, Italie, 120 min
『ノートルダム 炎の大聖堂』 Notre-Dame brûle