『それでも私は生きていく』セーヌ川の岸辺。木洩れ陽の下に佇む母と娘。娘のアイスクリームを「味見させて」とねだる母の名はサンドラ・キンツレー(レア・セドゥ)。アイスクリームを受け取って走り出す母を追いかける娘の名はリン(カミーユ・ルバン・マルタン)。どこにでもいそうな、幸せな家族のひととき……サンドラの仕事は通訳者。誰かの言葉を誰かに伝える。私生活では、視力と記憶が徐々に失われていく病気の父・ゲオルグ(パスカル・グレゴリー) の介護を担い、シングルマザーとして8歳の娘リン の成長を見守る。サンドラの毎日は忙しい。自分の気持ちを吐き出す余裕はほとんどない。哲学の教師だった父は自分が尊敬していた頃の面影から少しずつ遠ざかっていく。あるとき、父の教え子に「お父様はお元気ですか」と声をかけられた瞬間、サンドラは堪えきれずに泣き顔を見せてしまう。他界した夫の友人・クレマン(メルヴィル・プポー)との関係に、自分が素顔になれる瞬間を見出すサンドラ。しかし、妻子にも誠実であろうとする彼は、サンドラに喜びと同時に苦しみも与える。”それでも”サンドラの忙しい毎日は相変わらず続く。 消えかけていた父の面影を書棚でみつけるとき、あきらめかけた愛を取り戻すとき……サンドラは、日々の小さな幸せをひとつひとつ、野に咲く花を愛おしく摘み取るように手にとっていく。フィルムの質感を大切に撮られた映像は登場人物を包み込むようにあたたかく、父と別れた後も家族としての関係を大切にする母フランソワーズ(ニコール・ガルシア)の存在も忘れがたい。モンマルトルの丘の上でクレマンがリンに語る言葉は、生きづらさを抱え”それでも“生き続ける人たちに送る、ミア・ハンセン・ラブ監督からのメッセージなのかもしれない。(Mika Tanaka)監督:ミア=ハンセン・ラブ出演:レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルヴィル・プポー、ニコール・ガルシア、カミーユ・ルバン・マルタン2022年/112分/R-15+Un beau matin de Mia Hansen-Løve avec Léa Seydoux, Pascal Greggory, Melvil Poupaud, Nicole Garcia, Camille Leban Martins; 2022, France, 112 min R-15+
『それでも私は生きていく』 Un beau matin