映画監督トニー・ガトリフ:知られざる民族 ジプシーの歴史と今フランスには75万人以上ものジプシーが生活していて、そのほとんどはフランス国籍です。よく知られていないこの民族について、私たちはイメージだけで勝手な事を言ってきたように思います。これまでの映画もまた、ステレオタイプなものばかりでした。トニー・ガトリフ監督の新作『僕のスウィング』の中では、ユーモラスなエピソードを織り込みながら、ジプシーの本当の姿が描かれています。フラン・パルレ:あなたご自身にもジプシーの血が・・・。トニー・ガトリフ:はい。母がジプシーです。フラン・パルレ:お母様からどんなジプシーの文化を受け継ぎましたか。トニー・ガトリフ:1990年から現在まで作ってきた全ての映画は、母のおかげで出来たと思います。ジプシー文化を人々に伝えるために『ガッジョ・ディーロ』、『ラッチョ・ドローム』といった作品を作ってきました。ジプシーのことを知らない人たちに分かってもらうようにね。フラン・パルレ:ジプシーを表す言葉は“ロマ”、“マヌーシュ”、“ジタン”“ツィガン”と様々ですが。トニー・ガトリフ:そうですね。国によって呼び方が変わりますが、同じ民族のことです。トルコではツィガノ、イタリアではジンガロ、東欧ではツィガン、南欧ではリタノ。でもみんなロマ族のことです。皆インドからきた同じ人種です。フラン・パルレ:フランスでは街から離れたところにある集合団地で暮らしている人が多いですよね。トニー・ガトリフ:はい。昔、フランス人や底辺労働者階級の人たちと一緒にされて、定住させられたのです。そこにはさまざまな人々がいますよ。フラン・パルレ:旅をし続けている人たちもいますか。トニー・ガトリフ:フランス国内を旅している人たちがいます。特に春から夏にかけての6ヶ月間移動し、冬は一箇所にとどまっています。旅と言っても、季節労働者として働く旅なのです。フラン・パルレ:『僕のスウィング』の中で、ジプシーの伝統である、椅子の腰掛ける部分に籐を張る作業をしていましたが、他にも伝統的な職業はありますか。トニー・ガトリフ:今では違う分野で働く人が多いですよ。椅子に籐を張る仕事は昔からありますが、最近は(それをやっている)マーケット以外では見かけませんね。フラン・パルレ:映画の中で、ジプシーは識字能力のないことについて触れていましたが、実際もそうなのですか。トニー・ガトリフ:ええ。事実ですよ。フランスの文化とは違うんです。フランスではまだ、人種の違う子供たちを教育するシステムがしっかりしていません。それに宗教とは関係のないフランスの普通の学校に子供たちは行きたがらないですし。フラン・パルレ:ジプシーにとって宗教は大変重要なものだと表現されていましたが。トニー・ガトリフ:はい。でも彼らは毎朝、教会に行くほど信心深くはありません。マリア様のことはキリストの母ですから崇拝していますが、キリスト自身を崇める気持ちはないようですね。フラン・パルレ:ジプシー文化を伝えるには、音楽から入るのが良いのでしょうか。トニー・ガトリフ:はい。私たちの文化、それは音楽なのです。文化としてあるものは唯一これだけなのです。フラン・パルレ:他には? 衣装などは?トニー・ガトリフ:いいえ。それは文化ではありません。衣装は必要だから着ているだけのことです。伝統や、縁起をかつぐこと、結婚様式などありますが、それらは文化ではないのです。音楽だけが私たちの文化なのです。フラン・パルレ:では、音楽が文字の代わりにもなるということでしょうか。トニー・ガトリフ:ええ、その通りです。音楽は、コミュニケーションの手段であって、彼らは音楽で語り合うのです。フラン・パルレ:最近の若者も伝統的な音楽を聴くのですか?トニー・ガトリフ:若い人たちは古風なものを嫌っていて、ラップなどを聴いています。彼らはジプシー音楽を古くさいと言うけれど、本当は驚くほど斬新なものなのです!!ジプシーの若者たちも世界中の若者たちと同様、急速に変化するこの現代社会で、本当に何を選んだらよいのか分からなくなっているのです。フラン・パルレ:映画の中で、ジプシーと自然との共生を描いていますね。鱒を釣ったり・・・実際もそういう生活なのですか。トニー・ガトリフ:自然と共に生きることは、ジプシーの歴史の一部でもあります。今でもそのような生活が続いています。フラン・パルレ:他に、あまり知られていない民族大虐殺のことを語っていますね。トニー・ガトリフ:ジプシー受難の民族大虐殺はフランスだけでなく、日本はもちろん、世界中でも知られていませんね。50万人もの人が殺されたというのに。人類の残酷な歴史で、忘れ去られた歴史なのです。歴史事典にも書かれていません。誰もそのことを声には出しませんが、実際に起きた出来事なのです。この事実は事典に書かれるべきなのです。フラン・パルレ:フランスではジプシーが放浪することを拒否していますよね。トニー・ガトリフ:その通りです。いつの時代にもあったことで、今でも変わっていません。フラン・パルレ:旅をし続けている人のために、定住できる場所はあるのですか。トニー・ガトリフ:いいえ。空いている土地などありません。フランスは、全て閉ざされています。発展した国には場所はなく、村のまわりや、街のまわりの駐車場にとどまると、追っ払われてしまうのです。彼らが落ち着くときはひと時もないのです。フラン・パルレ:定住者、つまりフランス人と、不定住のジプシーが、お互いを受け入れ合うことはないのですか。トニー・ガトリフ:そんなに簡単なことではないと思います。難しいですね。一概には言えません。フランス人でジプシーが好きで、会って、話したがる人もいますし、大嫌いな人だっています。ジプシーも同様、フランス人と会うのが好きな人もいますが、嫌う人もいますからね。なんともいえません。フラン・パルレ:『僕のスウィング』の中で、ギターを習いにきた(フランス人の)少年が、そこで・・・トニー・ガトリフ:そうです。彼は純粋で、偏見がなく、新しいことを何でも受け入れて、知らないことを知ろうとする力があるのです。開放的で、素直な人柄です。フラン・パルレ:不定住民族をテーマにした他の映画を作る計画はありますか。トニー・ガトリフ:もちろんです。私は今までさりげない控えめな映画を作ってきました。約20年もの間、みんなが知らないジプシー民族を、その音楽と映画で表現してきました。ですからもうそろそろ他の民族をとりあげてもいいかもしれません。例えばエスキモーとか。でもエスキモーのことは全く知らないし・・・アラブ人の映画なら作れますよ。だって私には半分アラブの血が流れていますから。またはあらゆる民族、人間に関係のありうる亡命について、とか。フラン・パルレ:今現在計画はあるのですか?トニー・ガトリフ:いいえ、まだ分かりません。考え始めた段階ですから。『僕のスウィング』を撮り終えて、次もまた、民族の放浪の旅をテーマに映画を作ろうかと思っています。2003年2月インタヴュー:エリック・プリウ翻訳:三枝亜希子
トニー•ガトリフ、映画『僕のスウィング』監督
投稿日 2003年2月1日
最後に更新されたのは 2023年5月25日