『Winter boy』「今の僕は頭で考えすぎてる。だから身体だけを使って羽みたいに軽くなりたい」主人公のこの言葉に、自分の思春期を思い出す人もいるではないだろうか。高校の寄宿舎で暮らす17歳のリュカ(ポール・キルシェ)は、父が交通事故に遭ったという知らせを受ける。取り乱す母・イザベル(ジュリエット・ビノシュ)、パリから駆けつけた兄・カンタン(ヴァンサン・ラコスト)、集まった親族たち……時間が矢のように過ぎた後、リュカの心に喪失感と共に多くの感情がいっぺんに押し寄せてくる。気持ちを切り替えるために、リュカは、兄・カンタンの暮らすパリに向かう。プロのアーティストをめざすカンタンは、昼は駐車場係として働き、忙しい日々を送っていた。リュカはカンタンのルームメイトのリリオ(エルヴァン・ケポア・ファレ)と過ごしながら、自分の心の傷をみつめる。父は自分のことを愛してくれていたのだろうか。自分に失望していたのではないだろうか。ひょっとして父の死は事故ではなく……愛されている実感のないまま、家族を失ってしまうやるせなさ。17歳であればなおさらだろう。クリストフ・オノレ監督は、自分の少年時代の記憶をもとに映画の脚本を書き、本人自らリュカの父親役として出演している。自分自身の過去と真摯に向き合うために。オノレ監督の思いとポール・キルシェの演技が呼応しながら、私たちの心に迫ってくる。(Mika Tanaka)監督・脚本:クリストフ・オノレ出演:ポール・キルシェ、ジュリエット・ビノシュ、ヴァンサン・ラコスト、エルヴァン・ケポア・ファレ125分/2022年/フランスLe lycéen de Christophe Honoré avec Paul Kircher, Juliette Binoche, Vincent Lacoste, Erwan Kepoa Falé, Anne Kessler; 2022, France, 125 min
『Winter boy』 Le lycéen