『ラ・メゾン 小説家と娼婦』« Il n’y a pas de sot métier »というフランス語を聞いたことがある。人の仕事に上下や優劣はないという意味だそうだ。日本にも似たような諺がある。この映画の主人公・エマ(アナ・ジラルド)は、それを実体験によって証明しようとしたのだろうか。原作は、2019年に発表されたエマ・ベッケルの自伝的小説。「娼婦についての小説を書く」という理由で、彼女は2年間、本当に娼婦となり娼館で働いたのだ。それは好奇心だろうか?作家としての野心だろうか?「恋愛と執筆から逃げたいだけじゃない?」。エマの妹(ジーナ・ヒメネス)がさりげなく発したひと言に、真実がかくれているのかもしれない。発表した作品が売れても、次もまた売れるとは限らない。心血を注いで書き上げても、見向きもされない可能性は十分にある。そんな状況にあって、ぶれることなく自分を持ち続けることがいかに苦しいことか。火の海に飛び込みでもしない限り、平静を保つことはできなかったのではないだろうか。「ラ・メゾン」という高級娼館には、さまざまな事情を持つ女性が集まる。ある娼婦は子供との時間をつくるために、またある娼婦は女優であり続けるために、そしてエマは作家という地位を失わないために、体を売る……主演のアナ・ジラルドが過激な描写に物おじせず臨むことができたのは、アニッサ・ボンヌフォン監督への絶大なる信頼があったからだろう。原作者のエマ・ベッケルもボンヌフォン監督の起用を強く望んだそうだ。女性監督の目線で描かれる女性たちを、そして女性監督の目線で描かれる男性たちを観察してほしい。そこからあなたは何を感じ取るだろうか。(Mika Tanaka)監督:アニッサ・ボンヌフォン出演:アナ・ジラルド、オーレ・アッティカ、ロッシ・デ・パルマ、ヤニック・レニエ、フィリップ・リボット、ジーナ・ヒメネス、ニキータ・ベルッチ89分/2022年/フランス、ベルギー/R-18※ユニフランスの支援を受け、“French Cinema Season in Japan”の一環として公開La Maison d’Anissa Bonnefont avec Ana Girardot, Aure Atika, Rossy de Palma, Yannick Renier, Philippe Rebbot, Gina Jimenez, Nikita Bellucci; 2022, France, Belgique, 89 min, R-18
『ラ・メゾン 小説家と娼婦』 La Maison