『バティモン5 望まれざる者』”NE SOYONS PLUS RÉSIGNÉS”(諦めるのはもうやめよう)。ポスターにはこう書かれている。そこに写るのは、パリ郊外の架空の町、モンヴィリエの市長選に立候補したアビー・ケイタ(アンタ・ディアウ)の笑顔だ。アフリカのマリ出身、モンヴィリエの古い団地、BÂTIMENT 5(バティモンサンク)に家族と住んでいる。イスラム教徒だが、クリスマスには幼い弟や妹と一緒にツリーを飾り、プレゼントを用意する。スカーフを巻いているけれど、スニーカーを履いてバイクに乗ることもある。彼女を立ち上がらせた直接の動機は、現市長による理不尽な禁止令だ。15歳〜18歳の若者は3人以上で繁華街にいてはいけない、20:00〜5:00は未成年だけでの外出は禁止。市議会に出された法案は議論されることなく成立してしまう。この映画で虐げられるのは若者だけではない。「移民」と呼ばれ貧困と直面する多くの人々が、一部の権力者に翻弄される。外壁が崩れかけ老朽化した建物は、行政側にとって処分すべき対象。しかし、必死でローンと金利を払い続けて住む移民たちにとっては、かけがえのない居場所だ。破壊しようとする者たちと守ろうとする者たちとの闘い、守ろうとする者が陥っていく狂気……監督のラジ・リは、パリ郊外、モンフェルメイユの出身。彼自身が見てきたもの、聞いてきたことがベースとなり、濃密なフィクションが完成した。物語は悲惨な方向へと展開していく。それでも、「あなた自身をひとことで表現するなら?」という記者の問いかけに« Je suis une Française aujourd’hui. » 「私は“現代”のフランス人なんです」と答えたアビーのまなざしに、ひと筋の希望が残されているように思える。(Mika Tanaka)監督・脚本:ラジ・リ出演:アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ、アリストート・ルインドゥラ、ジャンヌ・バリバール、スティーヴ・ティアンチュー105分/2023年/フランス・ベルギーBâtiment 5 de Ladj Ly avec Anta Diaw, Alexis Manenti, Aristote Luyindula, Jeanne Balibar, Steve Tientcheu; 2023, France, Belgique, 105 min
『バティモン5 望まれざる者』 Bâtiment 5