『クレオの夏休み』
クレオ(ルイーズ・モーロワ=パンザニ)は6歳。パパと2人でパリで暮らしている。ママはいない。でも、本当のママのようなあったかさで包み込んでくれるグロリア(イルサ・モレノ・ゼーゴ)がいる。グロリアは、パパが仕事をしている間、クレオのそばにいてくれるナニー(乳母)だ。クレオがグロリアを必要としているように、グロリアもまた、クレオを実の娘のように愛していた。あるとき、グロリアは故郷のカーボベルデに帰らなければならなくなる。
ママを失い、グロリアを失ったクレオ。天国のママとは会えない、でもグロリアとは、飛行機に乗って海を渡れば会える。クレオは、1人でグロリアの待つアフリカの島へと向かう……メガネをかけた小さな少女にとって、聴覚や触覚で得る情報は何よりも大切。子供ゆえの繊細な感性はより研ぎ澄まされ、クレオのイマジネーションは柔らかな色彩のアニメーションで表現される。公園で弟とケンカしているところをキャスティングディレクターに見出された少女ルイーズは、偶然とは思えないほどの機知と才能を持ち、詩情溢れる演技で私たちを魅了する。彼女の演技を受け止めるナニーを演じるイルサは、実際にフランスでナニーの仕事をしていた。イルサの出身地がカーボベルデだったことが、この映画の設定として使われた。
「愛にお金が支払われる。それは本当の愛?それとも単なる仕事?あるいは心からの使命?」マリー・アマシュケリ監督は、映画を通してこの問いを投げかける。彼女自身が大好きなナニーと過ごした子供時代を重ねることで、この映画は完成する。「私のナニーであったローリンダ・コレイアは、今でも自分を『私の娘』と呼んでくれます」と監督は語る。生計を立てるためにナニーの仕事を選んだとしても、心と心の結びつきが”仕事”という枠を超えた”愛”になることがある。幼いマリーは、親孝行をするかのように、ローリンダへの感謝と愛を映画を通して伝えたのだ。
この映画は、愛だけを描いているわけではない。植民地主義の負の遺産についても目をそらさずに描く。実の子供たちを故郷に残してパリで働かなければならなかった多くのグロリアがこの世界に存在していることを、決して忘れてはならない。(Mika Tanaka)
監督:マリー・アマシュケリ
出演:ルイーズ・モーロワ=パンザニ、イルサ・モレノ・ゼーゴ、アルノー・ルボチー二
2023年/フランス/83分
Àma gloria de Marie Amachoukeli avec Louise Mauroy-Panzani, Ilça Moreno, Arnaud Rebotini; 2023, France, 83 min