『カンフー・マスター！』 デジタルレストア　日本語字幕新訳版

　道着姿でカンフーの技を披露する少年がいる。15歳のジュリアン（マチュー・ドゥミ）だ。大好きなゲーム「カンフー・マスター」に体も心も入り込んでしまっているらしい。ジュリアンはある日、同級生ルシー（シャルロット・ゲンズブール）の誕生日パーティーに参加する。そこで、熱を出した娘ルー（ルー・ドワイヨン）を看病するマリー・ジェーン（ジェーン・バーキン）に出会う。優しい歌声に聞き入るジュリアン、それに気づきながら気づかないふりをするマリー・ジェーン。それが2人の始まりだった……撮影に使われたのはジェーン・バーキンの自宅。マリー・ジェーンの娘を演じたのは、ジェーンの実の娘たち。ロンドンの家族を演じたのも、ジェーンの実の家族だ。そしてジュリアンを演じたのはアニエス・ヴァルダの実子。フィクションとして見始めたはずが、いつの間にかフィクションとは思えなくなるような、不思議な浮遊感を体験する。
マリー・ジェーンの母（ジェーン・バーキンの実母・ジュディ・キャンプベル）の助言と行動、その凛とした姿。「ママがいない〜！」と突然泣き出すルーの愛くるしい表情と仕草。この一瞬を引き出すことができる人が、アニエス・ヴァルダ以外に存在するだろうか。
　思春期の少年の残酷さと純粋さ。彼らは相反する2つのものを持ち合わせ、ときにそれを持て余す。落としてしまったらすぐに壊れてしまいそうな危うさの中で、彼らは生きる……思えば、ジェーン・バーキンという人自身がそんな危うさをはらんだ人だった。40歳と15歳、あまりにも年が離れているように見えるけれど、2人の心の年齢はほぼ同じだったのだろう。一見いびつに見えても、さまざまな障害があったとしても、「愛」という希望が確かにあるのなら、どうか叶ってほしいと願う自分がいる。（Mika Tanaka）

監督・脚本：ア二エス・ヴァルダ
原案：ジェーン・バーキン
出演：ジェーン・バーキン、マチュー・ドゥミ、シャルロット・ゲンズブール、ルー・ドワイヨン、デビット・バーキン、ジュディ・キャンプベル、アンドリュー・バーキン
1988年／フランス／88分／DCP＆Blu-ray

Kung-Fu Master! d’Agnès Varda avec Jane Birkin, Mathieu Demy, Charlotte Gainsbourg, Lou Doillon; 1988, France, 88 min

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