フラン•パルレ Franc-Parler
La francophonie au Japon

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シャンタル・ジルベール、装飾ナイフ職人
投稿日 2004年5月1日
最後に更新されたのは 2023年5月25日
シャンタル・ジルベール:究極のナイフ作り
 
ケベックの女性ナイフ職人、シャンタル・ジルベールは、実用的なナイフではなく、装飾美術品の域に達したナイフ作りをしています。在日カナダ大使館での展示会開催に際し、お話を聞きました。
 

フラン・パルレ:あなたはクトリエール(女性ナイフ職人)ですが、この言葉はあなたのために特別に作られたものでしょうか。
シャンタル・ジルベール:そうかもしれません。世界中で女性のナイフ職人は非常に少ないですから。その言葉を耳にしたことはほとんどありませんが、私が作った言葉ではありません。クトリエ(男性ナイフ職人)の女性形ということでしょう。
 
フラン・パルレ:ナイフ作りはどちらかというと、男性の職業だと思いますが、どのようにしてこの世界に入ったのですか。
シャンタル・ジルベール:もともと私は、女性に多い宝石細工の仕事をしていました。しかし、あるときナイフに興味を持ったのです。全くの偶然からでした。金や銀、他の素材を使っての宝石作りは心得ていましたので、今度はナイフを作ってみたいと思いました。ただ、スチールはそれまで使ったことはありませんでした。最初は独学で始め、それが私の冒険の第一歩となりました。世界中にナイフ収集家がたくさんいることや、素晴らしいナイフを創作している人たちがいることも知らずに始めました。ある日、パリで行われる装飾ナイフ展に出品しないかと一本の電話を受け取りました。私の作ったナイフをなんとなく展示していたら、口コミで私の作品の評判が広がっていったのです。このナイフの世界は、インターナショナルで、一種独特の世界と言えるかもしれません。
 
フラン・パルレ:ナイフ作りは一から十まで自分でするのですか。
シャンタル・ジルベール:はい。素材を形にするところまで全てです。刃を作り、柄を作り、完全なナイフに仕上げます。
 

フラン・パルレ:どんな製作段階を踏んでナイフは出来上がるのですか。
シャンタル・ジルベール:私の作るナイフには全て、宝石細工職人である部分が残っています。柄は、ほとんどの場合、銀と木で作ります。まず、ナイフの中で一番装飾的な部分である柄から作り始めます。その後は、色々な技術がありますので、場合によって変わっていきます。刃をデッサンし、フレームをつくり、自分で刃に焼きを入れるか他の人にたのみます。
 
フラン・パルレ:柄によって刃作りを考えるということですか。
シャンタル・ジルベール:はい。多くのナイフ職人は、刃作りが最も大切なものだと考え、後から柄をデザインしますが、私の場合は逆です。
 
フラン・パルレ:金や銀のような高価な素材以外に使う希少な素材がありますか?
シャンタル・ジルベール:化石になったマンモスの牙や、法的に採取や売買が認められている牙、化石動物の牙などです。隕石だって使います。希少価値のある石をよく使っていますが、私はいつも、その素材に歴史があるような逸話的な素材を探しています。それらを私の作品に取り入れることで、更にナイフが意味のあるものになるのです。
 

フラン・パルレ:カナダ特有の素材がありますか。
シャンタル・ジルベール:セイウチの牙があります。また、ダイヤモンドを使うときはカナダ産のものを買うようにしています。それらは大変美しく、ダイヤモンドの市場でも新鮮なものです。
 
フラン・パルレ:貴重な素材でできたナイフは、物を切るためのものではないのでは?
シャンタル・ジルベール:作品によります。私の作るナイフは非常に繊細なものが多いので、ナイフ本来の目的を果たすものではありません。それらはナイフというよりは、ナイフの王様、究極のナイフと言えます。もはや刃物ではないのです。
でも、実際に使えるナイフも作っていますよ。それらはギャラリーには置いていません。私のアトリエに置いておきます。お客さんやコレクターが直接注文し、アトリエに取りに来ます。使えるナイフはギャラリーに置いてある作品とは違います。しかし、ギャラリーにおいてある全ての小さなナイフは、刃物製造の基準に沿って作っています。ショーウインドウに飾られているナイフは、大鹿を解体することもできますが、買っていく人はそれが目的ではありません。
 
フラン・パルレ:収集家はほとんど男性ですか?
シャンタル・ジルベール:いいえ。女性のお客さんも多いですよ。私自身も驚いています。お客さんの3分の1か、4分の1は女性です。
 
フラン・パルレ:一つだけ買っていくのですか?それともまとめて?
シャンタル・ジルベール:ナイフ収集家は、様々なナイフ職人から購入するようです。一人の職人から二つか三つ買い、他の職人からも買っていきます。
私の作品に興味を示してくれるのは、ナイフ収集家だけではありません。美術品のコレクターが私の作品を買ってくれることの方が多いです。なぜなら私の作品は、ナイフ本来の目的から超越したものだからです。
 
フラン・パルレ:コレクターのナイフ選びの基準は?
シャンタル・ジルベール:仕事の質。これが最も重要なことです。装飾ナイフ作りには非常に厳しいたくさんの基準があります。収集家には、見た目の美しさを重要視する人と、そのナイフが秘めた物語性に惹かれる人がいます。ナイフには遊びの要素を持つものと、メッセージを発信するものがあります。
 
Bécassine, couteau en argent

フラン・パルレ:メッセージを・・・?どういうことでしょうか。
シャンタル・ジルベール:私はテーマを決めて、ナイフを作っています。例えば、「乱切」と呼んでいるユダヤ教の割礼儀式のように。これらの作品は装飾ナイフの考えを越えたものです。昔から人は儀式のときや、それ以外でも身体に何かを刻んだりしてきました。刃物は、儀式や、歴史、所属、役割、権力などを刻みこむ道具でした。私は、それらを表現するナイフ作りをしています。他にも「川」をテーマにしたものがあります。ナイフを通して、大地を裁断する大河を表現しています。空から地上を見ると、川は長い傷のように見えると思います。そこから、ナイフは川を表現するものだという考えが浮かびました。私は自分が言いたいことをナイフに代弁させます。人間のカップルについても表現しています。お気づきかもしれませんが、多くのナイフが対になっています。これらは人間関係を表しているのです。人と人の関係を話すのに、ナイフは理想的なものだと私は考えています。
 
フラン・パルレ:ちょっとお話が分かりにくいのですが・・・
シャンタル・ジルベール:刃物とは、それ自身ですでに分かりにくいものです。人の命を助けることもできれば、死に至らせることもできます。パンを切ることだってできます。刃物は、友情の証にもなれば、友情を断ち切るシンボルにもなり得ます。
私は、ナイフと人間関係の微妙な曖昧さについて話しているのです。どちらもとても壊れやすいものです。人間関係は、いとも簡単に結ばれたり、壊れたりするものです。ナイフは、それを象徴するものだと私は考えています。
 
2004年5月
インタビュー:エリック・プリュウ
翻訳:三枝亜希子
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