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2014年7月フラン・パルレ文庫
投稿日 2014年6月23日
最後に更新されたのは 2023年5月23日

S Kobayashi 著者:

秘められた生
パスカル・キニャール著
小川美登里訳
Vie secrète de Pascal Quignard
水声社
価格:4800円+税
ISBN978-4-89176-996-3

現代フランス文学界を代表する作家、パスカル・キニャールの第三十三作目の作品である。
古代と現代を縦横無尽に往来し、時空を超えた世界観の作品を生み出してきたキニャールであるが、本作品は、これまでの作品と趣を異にしている。『秘められた生』は、これまでのように巧妙に作り込まれた物語世界や、童話、コントといった虚構の世界から離れて、作者自身の生身の姿をさらけ出そうとした作品なのである。しかし、だからといって、本作は単なる自伝とは異なる。これは、既成のいかなるジャンルにも収まらない、観想と物語、自伝が複雑に絡み合う詩的で私的な作品であると言うことができる。
本書においてキニャールが追求したテーマは、「愛」である。人間は、母親の胎内にいた幸福な状態から引き離されることで、個人として成長していく。しかし人は、母親と不可分であった原初状態へ戻りたいという郷愁を持ち続けるのである。だが、それは不可能であるばかりではなく、確立したはずの「個性」をも失いかねない危険性を秘めている。この罠に陥らないために人は他者を愛する。個人としての自己が、原初状態へ別れを告げ、相手を自分とは異なる存在、「他者」として愛することで、救われるのである。
以上が、キニャールの言う「愛」の意味であるが、彼による「愛」の探求は、決して一筋縄には行かず、錯綜や矛盾に満ちたものとなっている。このことはつまり、私たちの生そのものが複雑さと神秘性を持っていることの証拠でもある。既成の価値や社会通念を破壊し、未知の領域への飽くなき探求を続ける試みこそが、本書の魅力となっている。

さよならは何度でも ガンと向き合った医師の遺言
ダヴィッド・セルヴァン=シュレベール著
二瓶恵訳
On peut se dire au revoir plusieurs fois de David Servan-Schreiber
水声社
価格:1500円+税
ISBN978-4-89176-985-7

本書は、フランス人の医師によるガン闘病記である。著者のダヴィッド・セルヴァン=シュレベールはフランス人の精神科医であり、神経科学を専門とする研究者として、また神経医学の臨床教授として、長きにわたってアメリカで活躍した。ガンが発見されて以来、二十年にわたってガンと闘った彼は、2011年7月、惜しまれながらもその生涯に幕を下ろした。本書には、そんな彼が、最後まで生きる希望を失わず、自分にとって最良の生き方を模索し続け、そして時には弱い部分もさらけ出し、やがて死を受け入れていく姿が描かれている。
彼がガンに冒されていることを知ったのは、まだ三十歳手前、研究者としてまさにこれからという時のことであった。しかし、彼は絶望に負けることなく、脳腫瘍と闘い続けた。既存の考えにとらわれず体に良いとされるあらゆるものを取り入れ、心と体のバランスを保ち自然治癒の力を最大限に引き出す独自の方法を提唱していったのだ。それを実証するかのごとく、彼は予想された余命よりもはるかに長い月日を生き抜いた。
ガンに冒されながらも彼は、誠実な医師として、そして良き夫にして愛情深い父親として、真摯な生き方を貫き通した。そんな彼の姿は読む者の胸を強く打つ。生きる希望とは何か、本当に幸せな人生とは何かについて教えてくれる、力強いメッセージに溢れた一冊である。

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