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2014年11月フラン・パルレ文庫
投稿日 2014年11月17日
最後に更新されたのは 2023年5月23日

S Kobayashi 著者:

街道手帖
ジュリアン・グラック著
永井敦子訳

Carnets du grand chemin de Julien Gracq
風濤社
価格:3200円+税
ISBN978-4-89219-384-2

本作品の著者ジュリアン・グラックは、フランスの小説家、評論家である。高等師範学校で地理学を学び、定年までリセ(高等中学校)に勤務しながら、作品を書いた。『アルゴールの城にて』、『シルトの岸辺』などの作品で知られ、シュルレアリスムに影響を受けながらも、比喩が幾重にも重なる詩的な文体を駆使して、独自の世界を築いた。
グラックは、1954年から、読書や芸術鑑賞に触発された日々の試作や目にした風景、さらに過去の経験や歴史をめぐる省察などをノートに綴り始めた。そして1967年の『花文字』を皮切りに、主にそのノートの内容を取捨選択し、編集することによって生涯に7冊の断章集を出版した。本書は、その中の一冊であり、彼の最後の著作である。
本書の構成としては、最初にグラックが旅や散策で出会った風景をめぐる断章がまとめられ、それが全体の約三分の一を占めている。続いて彼のそれまでの人生、とりわけ人生の方向が定まっていった青年期の出会いや体験に関することが綴られる。次に歴史的考察が続き、最後の三分の一ほどには文学や美術、映画に関する考察がまとめられている。
「この本を構成するメモが扱う街道は、もちろん地上の風景を横切り、つなぐ街道である。しかし、それはときには夢の街道であり、しばしば記憶の街道でもある。その記憶は私の記憶であるが、集合的な記憶、ときにはそのもっと遠いもの、すなわち歴史でもある。だからこの街道は、読書や芸術の街道である」とグラックは述べている。その言葉通り、本書では現在の時と過去の記憶、現実世界と夢や芸術といった非現実の世界が重なり合いながら全体を構成している。
詩人としての幻想的ポエジーと、地理学者としての客観的な目で綴られ、188編の断章がそれぞれ響きあいながら絡み合ったエッセーである。

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