マチユー・ルアヌール:形を創る元素私たちの生活のクオリティは、私たちを取り巻く道具に依存している。相次ぐ独創的な企画で、マチユー・ルアヌールは時代の空気を表現している。彼は2006年Grand prix de la création de la ville de Paris(パリ市主催デザインコンテストグランプリ)を受賞しており、フランス・サンテチエンヌ市のCité du Design(デザインに関する総合区域)で資格取得後の学生を指導している。フラン・パルレ:あなたのインターネットサイトには「1974年創業」とありますが、あなたの生まれた年ですよね。この年を選ばれたその心は何ですか?マチユー・ルアヌール:やはり経験年数の不足が、時に、マイナスのように考えられることから、私はその見方を変える、妨げる、あるいは、そらせる為に、実際に仕事の始まりは生まれ落ちた時から、つまり私が形成された時から、ということにしています。当然、多くの企画において、実際にその意図や方針は、生まれた時にではないにしろ、とにかく、とても若くして体験した、あるいは感知した物から来ていると自覚しているからです。フラン・パルレ:あなたはそれぞれ(の企画)を、とても違うコンセプトに基づいて取り組んでいらっしゃいますね。マチユー・ルアヌール:たしかに今日では、かなり多岐にわたっています。例として最近の企画や現在同時進行中の企画を、いくつか挙げます。私はBel-Air(ベル・エール:きれいな空気)プロジェクトの、言うなれば、実用化段階に取り組んでおり、2009年初めの市場売り出しを目指しています。現在、工業生産の試作品を作っている所です。これと並行して、フランスの中央部で11世紀のロマネスク様式の教会の内陣(祭壇が設けられている所)の改修をしています。アルテミデ(イタリアの照明メーカー)の為にランプのデザインをしています。従ってカバーする範囲は、科学的要素の強い企画や、別の商業的な要素がもっと強いもの、Melleメル市(ポワトゥ・シャラント県)の教会のように文化的要素の強いもの、等かなり広いです。フラン・パルレ:あなたのBel-Air(ベル・エール)企画とはどういうものですか?マチユー・ルアヌール:実際、この企画の話は、昨年パリで発足したある財団の要望によって、初めに立ち上げられたものです。それはデザイナーとハイレベルの科学者のコラボレーションや、相互交流という使命を負っています。この企画には、私が以前すでに取り組んでいたテーマが関わってくると思いました。それは空気の質についてと、空気を材料のように取り扱うというものでした。デザイナーとして、今度は、これが探求したい材料です。この企画のアイディアは同じ科の植物の能力を、屋内、家庭の汚染物を吸収するその能力を有効活用することだと思います。|フラン・パルレ:それはオブジェですか、機械ですか?マチユー・ルアヌール:家庭用機械といいましょうか、ちょっと新しい形の家電製品といいましょうか、なぜなら最終的にそれはまさに生活のクオリティ、快適さに関わってくるオブジェだから、電気ヒーターとそんなにかけ離れていないと思います。それは機械とオブジェの一体型です。フラン・パルレ:あなたが最も関心があるのは何ですか?機械を考案して大量に生産することでしょうか、それともコンセプトに従って単一のオブジェを創ることでしょうか?マチユー・ルアヌール:物事が進んで行ったのは、この場合、私がある諸問題や状況に目をつけ、それについて危険を感じたからです。それは最近ますます話題になっている屋内汚染で、今日では大都市の外気汚染よりも有害だと、知られています。そこから端を発したのです。次に、そこに何かを提案するのは、私の番です。それはかなり先端科学の分野のコラボレーション、研究になります。これらの諸問題に応える為に、私は何が出来るだろうか?そしてそれは常に試作段階から始まり、それが技術的にも、形式的にも有効で、製品に概念を与えるのです。その後、物事は常に私の一存にはなりません。すなわちオブジェは、それはBel-Air(ベル・エール)の場合ですが、対消費者では、すぐに反響が、それもかなり大きなものがあることが分かります。彼らは毎日私たちにメールを送って来て−どこでそれを見つける事ができるか?−と言ってきます。それから多くの業者や投資家から−このプロジェクトに興味がある−と言ってコンタクトがあります。最終的にこの要望がオブジェを試作品段階から量産段階に持って行くのです。しかしながら私がそれらを初めに考案する時に、常に潜在的に、それらが大量生産するオブジェになれるようにしていることは確かです。
フラン・パルレ:あなたは同じく野良猫の為の避難所を創られたのですね…マチユー・ルアヌール:実際、企画には、物語がある場合がかなり多く、だいたいが企画やコンセプトの物語である以前に人に関わる物語でもある場合が多いです。ちょっとした偶然なのですが、私は1999年6月に国民議会で可決された新しい法律に出会ったのです。この新法はフランスの市区町村長が、野良猫を、完全に自由な状態で街に放しておくことを許可するものです。これらの猫が予防注射をして去勢されていることが唯一の条件です。この法律は偶然可決されたのではなく、猫の保護団体の圧力によるものでした。これらの団体はフランス下院議員に対して––聞いて下さい、これはあなた方にとってそんなに高くつく話ではなく、ドブネズミやハツカネズミのような有害動物を駆除してくれるだけでなく、お年寄りや病気の人々においては猫によってある種の社会生活が活性化することを保証できるのです。−と言いながらデモを行ったのです。私はこのことをかなり立派で、勇気があると思いました。どちらかというと脆い、それほど組織力がない、これらの団体の立場から、こんな風に法案を要望するということは。これを見つけて、私は情がわいたのです。必ずしも猫にではなく、この運動、この勇気そしてこの力強さに、です。私は彼らに野良猫の居住システムを提案したくなりました。それは野良猫を固定させたり、定住させたりするのではなく、このシステムの目に見える面を一時的に見せて、最終的に猫達がそこで食事がとれ、観察、監視される場所であって欲しいと思います。このようにして最終的にこの件の背景と、新しいオブジェを提供したい欲求が進行していったのです。2008年10月インタヴュー:プリュウ・エリック翻訳:粟野みゆき
マチユー・ルアヌール、工業デザイナー
投稿日 2008年10月1日
最後に更新されたのは 2023年5月25日