水曜日 2014年2月12日
クレール・ド・デュラス著、湯原かの子訳『ウーリカ ある黒人娘の恋』 水声社、2014年1月
この中編小説はパリのある開業医が病気の修道女ウーリカから聞いた身の上話の形式を取っている。その医者が初めてウーリカを診察するために修道院の回廊を進んでいく最初のページには、読者をフランス革命による破壊の傷跡が残る時代へと引き込んでいく力がある。そして、回廊を抜けた先の庭のベンチに、大きな黒いヴェールにすっぽり包まれて腰をおろしていた病気の修道女が振り向くと、黒人であることが分かる・・・ ミステリアスな冒頭部に続くのは、一口で言えば、黒人娘ウーリカの視点から語られる恋愛心理であるが、その文学的価値については、巻末に掲載されている訳者の見事な解説「デュラス夫人『ウーリカ』について」があるので、ここでは繰り返さない。是非そちらを参照していただきたい。 筆者の正直な感想としては、黒人と白人の恋愛がもたらすアイデンティティの危機というテーマ設定の独創性に感心すると同時に、神への信仰による救済という結末に物足りなさを禁じ得なかった。1822年という創作年を考えると、止むを得ないのかもしれないが。 (…)